無限の住人
「食わず嫌い」という言葉がありますねえ。思い込みで食べても見ない前から「これ嫌い」と決め付けて人生を損するという。子供の頃小豆も小豆餡も嫌いでしたが、全くの食わず嫌いでした。今は羊羹も饅頭もお汁粉もばくばく食べます。「虎屋のにしてよう」などと贅沢三昧を言うほどです。
「食ってみると案外・・・」という話は食べ物以外でもよくある話。つくづく、頭も体も舌も柔らかいにこしたことはありません。固く硬直していると大損こきます。人生の快楽を自ら捨てることはない。心がけているつもりなのですがねえ。
「無限の住人」(沙村広明著・既刊18巻・講談社)は連載開始から知ってました。アフタヌーンは立ち読みマンガ雑誌リストに入っているし。でも飛ばし飛ばしテゲテゲにしか読んでなかったです。だって特に連載当初は女性キャラが全部一緒に見えたし。キャラの名前はへんちくりんで覚えにくいし(司戸菱安=しどひしやす=シド・ヴィシャスとかさ)。
最近ブックオフで1冊100円で売ってるのでまとめ読みしてみたんですよ。びっくら!!こーんなおもしろかったのか!
「無限の住人」を語るのに、よく「圧倒的な画力、斬新な殺陣」が言われるんですが、いや、なんちゅうーてもスケベエですわ。すごい。手飛び、足飛び、首飛び、血ィ吹き出る殺陣シーンと違て、エロには直接的な表現はしてないのにエロい!!「男達がエロいエロいというが女からしたらどこがよ?」という青年誌マンガはよくありますが、これはマジでエロい。ちゅうか、この作品では武器を使う女達が出てくるわけですがその女達の殺陣そのものがむちゃくちゃエロい。
特に乙橘槇絵。なんと化け物のような剣士が跋扈するこの物語の中で最強の剣士なのはこの女。主人公の「百人斬りの万次」が見たとたん一目散に走って逃げ出すほど。この女が三節槍を一閃すればそこらじゅうの男どもの首や手足が吹っ飛ぶのだが、汗一つかかず、息一つ乱さず、血しぶき一つ浴びない。その殺陣は舞のように優雅でストリップのようにエロティック。たまらん。
百淋姐さん。この人はもう常日頃からエロい。金髪も超ミニの着物も超高足ゲタも片足だけのスパッツもしぐさも目つきもどっきどき。偽一との間はどうなるのでしょうか?
瞳阿。一部ロリコンファンの熱狂的な支持を受けているという、アイヌの血を引く小柄な女戦士。さもあらん。沙村氏の侮れないところは、このロリ顔のねえちゃんが「愚かなまでの力を求める精神」を口にし、しかもそれを実践しているところ。その筋好きの兄ちゃんたちにはたまらんでしょう。
女主人公凛。最初は強烈なネエちゃんたちに埋もれて目立たなかったんだけどねえ・・・。最近は凄いよ。万次を無事に人体実験から救い出せるんでしょうか?今の凛ならできそうな気がする。
・・・・・というように、実は沙村氏は殺陣が描きたいのではなく、「女体が一番エロく見えるシチュエーションと構図が描きたいのではないか?」と思うほどでありますよ。それほど彼の殺陣は男も女も皆関節が柔らかそうだ。「関節が柔らかい」ということは実は格闘技にはたいへん重要なことで(ばかやろうな体育会系はストレッチを無視しがちだが)、関節の可動域が大きいくなり技の応用力を広げ、怪我を防ぐ。そういう意味で沙村氏の殺陣は一見むちゃくちゃなようで理屈に合っていると思う。
「☆ガボンド」という大ヒット作があるけれど、あれの殺陣を見て思うのが「どいつもこいつも体固そう~」。だから~。固いと楽しくもおもしろくも気持ちよくもないんだってば。体固いとたいがい頭も固くなるよ。M本武蔵のイヤなところは「男の論理」に「女の生理」を無理矢理従わせようとするところ。もしくは最初から無いものとしようとするところ。武蔵だけじゃない、少年誌青年誌ってその手のが多い。「★じめの一歩」とかさ。いっつも思うね。「あんたら、そんなに女性性を無視してると痛い目見るよー」
「無限の住人」じゃそういう「オトコバカ」どもがじゃんじゃん痛い目を見てるのが痛快。百淋姐を輪姦した連中とか。あとねえ、天津影久を抹殺しようとした十数人の心形唐流の連中があっという間に槇絵にやられ、生き残りの一人が「お前に殺されるんじゃいやだよう。天津と戦わせてくれよう。」と泣きながら哀願したり。それを目の当たりにして「こいつらバカだ」と凛が言ったり。
うおおおお、っとな名シーンてんこもり。今さらながら時代劇殺陣ものじゃ、やっぱこれかねえ。
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