MOONLIGHT MILE・12巻
わが鹿児島は日本で唯一ロケット発射基地がある県なのであります。しかも種子島と内之浦の二つ。広島に嫁に行った妹が二歳まじかの甥っ子を連れて里帰り出産に帰ってきているのですが、「初孫にして男の子」の甥っ子に、いついかようにして種子島のロケット基地、できればロケット打ち上げを見せたものかと虎視眈々と図る父を見て、「まったく理系オヤジはどうしようもねえなあ」と思うのでありますよ。
というわけで、「MOONLIGHT MILE・12巻」(太田垣康男・小学館)なのであります。まさしくこの巻の舞台は種子島、主要脇役は「日本のどうしようもないプロジェクトX理系オヤジ」でありました。
・・・・・吾郎が人類初の月ベビーである自分の子供に遭いに行くために選んだのは、ロートルもいいところの国産H-ⅡAロケット。この作品中ではアメリカの世界戦略のために日本のロケット技術は封印され、エンジニア達もリストラされています。H-ⅡAのエンジニア達も養老院に入ったほうがいいようなジジイども。どいつもこいつもロケット一筋で家庭を顧みなかったジジイばかり。そのジジイの親玉が荒川教授(糸川英夫博士がモデル?)。
荒川は、仕事ばかりで家庭はほったらかし。そのためにぐれていた息子に子供ができて、和解の兆しが見えて荒川打ち上げのロケットを見学に来る途中で息子・嫁・孫ともども事故死してしまった悲しい過去を持っている。失意のあまり引退同然だった荒川のエンジニア魂に火をつけたのが、主人公吾郎のロストマンと産まれてくる子供への意地。「H-ⅡAで有人飛行」の悲願を達成するために、一致団結して当たる吾郎と自衛隊とジジイエンジニア達。
しかし「日本のロケット開発を快く思わないアジア某国のテロリスト」が種子島に潜入し、ジジイエンジニア達のバスを爆破してしまう。多数の死傷者がでて、滞る作業。分裂するジジイたち。そんななかH-ⅡAの種子島陸揚げが行われ、そのH-ⅡAをテロリストのロケット榴弾が今しも襲おうと・・・・・
いやあああ、毎度思うことですが、太田垣氏はほんっとうに話作りがうまい!こんな話よく思いつくなあ。そして何より視線が優しい。状況分析はものすごくクールなのに、どんなどうしようもない人物に対しても注ぐ視線はフェアで優しい。こういうところがすごく好き。
この巻の冒頭で吾郎とロストマンの生き方の違いが端的に表現されていました。「宇宙を目指すのに、アメリカで一番平等な組織である軍隊に入る」というロストマンと、「人を殺すと人間が変わる。心をなくすな」とたしなめる吾郎。この二人の言葉がすべてですね。
決して人を殺さない吾郎が大好き!「人を殺さない、でも決してあきらめず可能性を探す。」戦後日本のオヤジたちは仕事仕事でどうしようもねえわがままオヤジたちでした。家庭も国土もかえりみなかった。でも人は殺さなかった。その点だけでも「人殺しよりマシだよな。」と思わせてくれる、12巻でありましたよ。
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