椿屋敷のお客様

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2006年2月15日 (水)

星の時計のLiddell

Nec_0030_7 日置の実家の倉庫に、それはそれは大量のマンガを保管してもらってます。モノゴコロついて長谷川町子の「サザエさん」と手塚治虫の「火の鳥」を読んで以来のヘビーなマンガ読者なもので1980年代~現在にいたるまでの、それでも厳選して厳選して残したマンガの数々が山積み。別に初版本とかサイン本とかのお値打ち本があるわけではないのですが、大事なのです。もう少し整理せねば~せねば~と思いながら、まあ・・・ぼちぼちですわ。

この間整理していたらこれがでてきました。

「星の時計のLiddell」(内田善美著・全3巻・集英社)1985年1巻発行。

1980年代というのは、いまだバブルも崩壊せず、日本は「ライジング・サン」とか言われ貿易黒字をアメーリカあたりにぎゃんぎゃんいわれるほど好景気だったわけです。にもかかわらず、どこかで「このままで済むわきゃ無い・・・」と皆がぼんやりと思っていて、見えない未来に漠然とした不安とほのかな希望を持っていました。1960年代みたいな「ばら色の未来、夢の21世紀」という手放しな礼賛はできなくなっていたような気がします。公害とか過剰な都市化の弊害もどんどん出てきだしていたし。ああ、考えてみれば「エイズ」とか「アスベスト問題」とか、このころに「科学朝日」で第一報を読んだ記憶があります。もはや科学朝日も廃刊になってから久しいですが。

それまで一段下に見られていた「少女マンガ」という分野が、ものすごいことになっていました。とにかく凄かった!!「最先端の知性は少女マンガを描いてるんじゃないか?・・・」と鹿児島の片隅の田舎で田舎者なりに思っていました。その頃何よりもリスペクトしていた作家は数え切れません。クイーン萩尾望都を筆頭に、山岸涼子、青池保子、吉田秋生、名香智子、槙村さとる、三原順、etc.etc.・・・・・。全部挙げていったら作家名だけで五十人はくだらないでしょう。

「星の時計のliddell」はその凄まじい多様性と可能性をはらんだ当時の少女マンガの中の、完成形のひとつでした。とにかく絵が凄い!!「どうやって描いたんだこれ!?」というほど緻密で正確、それでいながら可愛らしく透明で清潔な色香がある。今見ても全く古さを感じさせない、知性で制御された絵です。デッサンもいいが何より色!カラーページのとんでもない素晴らしさ。カラーインクで描いてあるのですが原画はどうなっているのでしょうか?ああ、色あせてないといいけれど・・・。

そしてストーリーの内容も凄かった。

・・・アメリカのシカゴでロシア貴族の末裔ウラジーミルは不思議な男ヒューと知り合う。二人は学生時代からの付き合いだったが、ヒューが不思議な夢を見つづけていること、その夢を見ているときには無呼吸の仮死状態になっていることを知り、さらに二人は接近していく。ヒューの夢とは百年以上前のビクトリアン・ハウスの夢。溜息がでるほどに青い夜明け前のハウスに夜な夜な訪れる美しい少女リデルと、ヒューは夢の中で懇意になっていき、あるとき助けを求める少女の声に応えるために、とうとうその夢のビクトリアン・ハウスを捜す旅にでてしまう。

ヒュー本人も不思議な魅力を持った「新人類」とでもいうべき人物で、「生まれつきずっと退屈し続けていた」ウラジーミルも彼にひかれて、ヒューの旅に付き合うことにする。・・・・・彼らが探すのは本物の未来の希望なのか、それとも一人物の妄想にすぎないのか。

ああ、これだけの文章ではとても説明しきれん。とにかく探せばリサイクルブックショップにあると思うので、現物を見てください。80年代の最先端の科学知識も駆使され、当時の未来への漠然とした不安とも希望ともつかないヴィジョンが、マンガというメディアの持つ可能性のギリギリまで使って表現されています。

21世紀現在、残念ながらこのマンガが示唆していた「未来の不安」のほとんどは現実になっています。環境破壊はとどまることを知らず、温暖化、動植物の絶滅とひどくなっているありさま。それでも、今読み返しても「ひょっとしたらこのマンガの中にある希望は、あるかもしれない・・・」と思わせる。時代や世代を超えた大傑作なのであります。

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 個人的に「マンガ読み」として一目置いている人物が、内田善美のマンガを貸してくれた。凄い傑作で、大学浪人時代を思い起こす懐かしい作品でもある。  予備校生だった私の隣の席は、イチローくんという一風変わった男だった。痩せぎすで、いつも浪人生らしからぬオ....... [続きを読む]

コメント

こんばんは。
常に読みかけの本がないと落ち着かない性分ですが、
読む本にはマンガも当然含まれます!
画像の作品、全然知らない作家さんのものです。
本当に絵が良さそう~♪
マンガの場合、内容もさることながら
“好みの画風”ってのが誰しもあるんじゃないでしょうか?
これは私にもストライクゾーンだと思われます。
今度実物の表紙を見せてくださいませ!

おはようございます。
「好みの画風」これもう本当に大事です。ぜひ、おいでになったときにご覧になってください。んで読んでください。内容もすごくおもしろいんです。これが。

絵とストーリーの融合具合がいい。
こんな作品は、今後もなかなか出でこないんでしょうねぇ。
ウラジーミルの祖国喪失感とヒューの人外魔境ぶり、主婦も日本人の少女もいっしょにいる何だか楽しそうなアメリカの大学の風景のミスマッチ。
建設の仕事をしていると、“家”に対するこだわりぶりも気になります。
ああ、今もう一度読みたい!

ppdemiさん、昔から私以上にこのマンガに入れ込んでましたよね。建設の仕事にモロについちゃって、『家』へのこだわりを身につけた今、このマンガをどう読むのでしょうか?それこそうちで読んでくださいよ。

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