一瞬の風になれ
去年の年末からこの一年の間に、今まで「児童文学」とされてきた分野のいずれ劣らぬ傑作三作を立て続けに読むことができました。
「バッテリー」「守り人シリーズ」そしてこの「一瞬の風になれ」(全3巻・佐藤多佳子著・講談社)です。
もう「児童文学」とかのジャンル分けなんかホント無意味。一昔前のイメージは「澄んだ眼をした恐ろしく素直な少年少女が、すさんだ大人の心を解きほぐすお話」とか「戦争で苦労する話」とかそんなんばっかりだったのですが・・・・・。もう、ぜんっぜん違う。
この「一瞬の風になれ」にしたって、「子供が、大人が」と読む人を選ばない。ものすごくおもしろい。主人公の新二がすごくいいやつで、ジャンルを問わず久々にこんな素直な主人公をみました。といっても見た目は髪の毛まっきっきの陸上部員だけれど。いまどき髪の毛黄色いのに意味なんかないしなあ。
新二のお兄ちゃん健一がサッカーの天才で、親友の連がスプリントの天才。男の子が身近にこんな二人の天才を抱えてたら普通ぐれるよ。
なのに新二ったら、むちゃくちゃ素直に少しづつ少しづつ自分の心と体を鍛えていって、ついに連と100mを競えるぐらいに成長していくの。もおおおおお、その素直さったら。思わずこちらの背筋も伸びちゃうぐらい、真摯なの。でも、ストイック一本やりじゃないの。ちゃんと周りに目配りができて、人に気も使えるの。なんてったって部長になっちゃうぐらいだから。ホントいいやつだなあ、新二。
この作品が「陸上」がテーマと聞いて、ありがちな、もっとガチガチな天才くんが悩み苦しむ話かと思ってました。だって陸上だし。ぜんぜんそうじゃなかった。どちらかというと普通のセンスの持ち主の主人公が、いまどき珍しいぐらいの普通の努力で、自分の肉体に自分の望む能力をつけていく話でした。なんという、すがすがしさよ!
100mだけじゃなくて、どちらかというと「4継」と呼ばれるリレーがメインのようにでてくるんだけれど、これが個人競技の陸上の中では唯一のチームプレーなのね。んでこのリレーが読んでてものすごく興奮するんだわ。手に汗握りますよ。リレーのバトンワークの話とか。チームの人間関係がモロに走りに影響して、単純な4人の100mラップの合計よりはるかに早くなったり、遅くなったり・・・・・・・。「最強の4人」を集めたからって「最強のチーム」ができるわけじゃないんだよね。当たり前だけど。
脇のキャラもとてもよし。400m専門なのにリレーにでるため黙々と朝連をする根岸とか。強豪校のライバルで、レース前に必ずべちゃくちゃしゃべらなきゃ気が済まない高梨とか。でも、一番は三輪先生。元ヤンキーだったのが更生してなぜか陸上。でも無理して故障。母校の陸上顧問になるんだけど、この先生のいつもはのんびりしてるのにいざというときビシッと決める強さがいい。いい先生だよ~~。
いやあ、今年もいい本に次々当たり、いい年でありました(ちょっと早いけれど)。どうぞ、みなさまもこの興奮とさわやかさを味わってください。必読ですぞ。
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