狐笛のかなた
「○ののけ姫」が嫌いです。いや、正確には「理解できない」かな。どうしてもあの森が日本の森とは思えないし、もちろん日本の中世にも見えない。なにより登場人物の心情に感情移入できない。
都会のエアコンが効いたスタジオで人生のほとんどの時間をお絵かきに費やした人が、お仕着せの旅で日本の森や山を巡っといて資料を集めて描いた森に見える。「なめんじゃねえ!」と啖呵をきりたくなるよ。
「日本の中世の森はもっと豊かで、もっと自分の魂にダイレクトに響く記憶を抱えているはず。」
ずっとそういう話が見たいと思っていたら、やってくれました上橋菜穂子氏。「守り人」シリーズがあまりにも見事だったので、著作を全部読んでみたらば、つきあたりました「狐笛のかなた」(理論社)。
やっぱりこれも児童文学の範疇を遠~く超えてしまってます。
種を超えたラヴ・ローマンス!霊狐・野火と呪者の娘・小夜の恋は、くるよくるよダイレクトに。自分の無意識の中に蓄えられた記憶に。「ああ、日本の森は、自然は、こういう恋を成立せしめるほど曖昧で優しく豊かであったのだなあ・・・・・・」と。
野火がね。よくってね。「守り人」のチャグム皇子もそうだったけど、上橋氏ってどうしてこう「自分ではどうしようもない宿命に耐える少年のストイックな色気」を描くのがうまいんでしょう!主に逆らい自分の命をかけて小夜を守る美しく力ある狐。いいよなあ。
こういう狐となら恋にも落ちようし、彼を助けるために狐笛を吹いて人の世を捨て、人の領域ともカミの領域とも知れぬ森の「あわい」に身をやつして後悔は無いでしょう。かわいい子狐ちゃんも産まれて三匹で春の野を楽しそうに駆けていくラストシーンは、たまらん。
泣かせるぞ。
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