邪魅の雫
というわけで、待ちに待った「京極堂シリーズ」最新作「邪魅の雫」(京極夏彦著・講談社)買いましたよ。んで、一気読みしました。817p。
あいかわらず分厚いです。うっかり寝転がって鼻に乗せて居眠りしたら間違いなく窒息します。でも、京極夏彦の凄いところは、このページ数をまったくもって理路整然と、しかも毎回毎回違う趣向で開陳してくれるところです。凄い。何という整理能力でしょう。京極夏彦たいへんな量のあらゆるジャンルの蔵書を持ち、それを誰もが呆れるほどの美しさで収納しているらしいです。そういう人にしてはじめて書ける作品であります。
「故獲鳥の夏」をはじめて読んだときに、心より「あたし日本人でよかった!」と思いました。「日本人でなきゃこの漢字だらけで日本的な言い回しのみで構成された小説の味はわからんだろう。日本語を日常的に使う国に生まれて、この小説を読む幸運に恵まれてよかった」と幸せを噛みしめたものです。シリーズが進むにつれてますますその思いを強くしています。
偏見ですが英語で書かれたスティーブン・キングやアガサ・クリスティは邦訳で読んでも結構味は伝わってるんじゃないかなあ?と思うんですね(原文を読んでないくせに決め付けてます)。でも京極夏彦、特に京極堂シリーズを英訳するのは不可能じゃなかろうか?広い世の中のことだから、たぶんもう英語版も出ているのかもしれませんが、それはもう原文のシリーズとはまったく違うものじゃないでしょうか?「故獲鳥の夏」は映画化されましたが、それもたぶんまったく違うものなんじゃないかなあ?観てないくせに決め付けてますが。それほど京極夏彦の文章世界は独特です。他に類がない。空前絶後とはこのことです。
さて、今回の「邪魅の雫」、どちらかといえば今まで脇役もいところだった警察の面々、元警察官の益田、現警察の青木、山下にスポットライトが当たっています。(京極堂と訳アリっぽい、公安の郷嶋、ちょっとかっこいいぞ)いつもの主役クラスたち、憑き物落としの古本屋京極堂、鬱病小説家の関口、ドはずれ警官の木場、そして何より神に等しい探偵榎木津の活躍場面はあまりありません。いわば脇役ユニットによるバージョンにもかかわらずこのおもしろさ。社会派警察小説のような趣です。松本清張や高村薫ばり。ほんと何でも書ける人なんだなあ。
まあ、わたくし芯から榎木津ファンなので、もっと出番が欲しかったところですが、いつもと違う榎木津を見ることができたので良しといたします。そうか~。榎木津。傍若無人な彼にもこういう一面があったのね。なんだか心がキュウンとなりました。これ以上はネタばれなので触れません。
京極堂シリーズファンのみなさま、やっぱり「邪魅の雫」はおもしろかったです。んで、まだ未読の方々はまずシリーズ最初の「故獲鳥の夏」からお読みする事をお薦めします。自分の中の「日本語の可能性」がグ―ンと拡がる事間違いなし。それはとても幸せなことでありますよ。騙されたと思って。ぜひ。
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