椿屋敷のお客様

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2008年1月 9日 (水)

天才柳沢教授の生活

19 「頭がいい」という言葉が嫌いです。だってとても曖昧な定義でしょ?何をもってして物差しにするわけ?

学力テスト?知能テスト?記憶力テスト?

・・・・・・・・全部、近いようで違うでしょ。学校の勉強ができても実生活をまともにおくれない人間なんてそれこそ五万と要るわけだし、たとえ文盲でもすばらしく知恵のある人もいる。学歴無くても仕事で成功してお金持ちもいる。だいたい頭の働きひとつにしても、身の回りのことに回転がいい人もいれば、長く一つのことを考え続けて難しい問題を解く人もいる。千差万別なわけよ。そして、人間の幸福がこれらによって保証されるわけでない、ってのもさらに話をややこしくするなあ。

と、常々思っていたところにこのマンガ「天才柳沢教授の生活」(既刊25巻・山下和美著・講談社)がでて、ぽんと膝を叩いて納得したことを覚えています。久々に読み返しました。やっぱり深くていいマンガだなあ。

主人公の柳沢教授はY大経済学部教授。曲がったことが大嫌いで道路交通法を遵守。道さえも直角に曲がるというまじめすぎてもう変人の域に入ってしまう人。

でもこの教授が一筋縄でいかないのが、この手のタイプにありがちながちがちの偏見もちではないところ。「この世には学ぶべきことが限りなくある」が信条の教授は、相手の身分、年齢、職業、国籍一切を問わず、「興味深い」と思った人間に子供以上の素直さで近づき理解しようとするのです。

そのプライドも見得も無い姿勢には読んでいるこちらまで思わず襟元を正してしまう真摯さがあります。

基本が一話完結のこのマンガの中で、話ごとにそれはもう老若男女、古今東西いろんな人間が出てくるのですが、その人たちの人生ドラマが「ああ、『頭がいい』いいってのは本当に意味のない言葉だな」と思わせてくれるのでありますよ。

一話一話登場する人たちに、千差万別の人生があり、それぞれがそれぞれの幸福を生きている。それこそが意味のあること。いいよなあ。

どの話も名作だけれど、特に好きなのが16巻の「Pureness」。35歳の一見モデル風の大学臨時講師と、42歳の大学教員食堂のおばちゃんの恋なんだけれど、それはそれは初々しくてドキドキします。そして意外にして幸福なる大どんでん返し。

これもとにかく読んでみてください。柳沢教授の日常にはまると、つまらなくくだらないことがとてもおもしろくなるし、くよくよ小さなことで悩まなくなります。太鼓判。

2008年1月 6日 (日)

動物のお医者さん

16 獣医マンガ(そんな分野あるのか?)の永遠の金字塔、「動物のお医者さん」(全12巻・佐々木倫子著・白泉社)です。1巻初版が1989年。これに関しちゃ、もう~~はまったはまった。「花とゆめ」連載だったのですが、雑誌連載のときに10回ぐらい読み返し、コミックスになったら即買いでその日のうちに5回は読み返し、それから延々20年近く、何百回と読み返しています。

何がそこまでわたくしの心をつかんだかというとですね、なんといっても佐々木氏のなんともいえないのんびりとしたスケールのでかさと、なおかつシビアでクールなテンポですわ。わたくし日本の南端に住んでおりますので北海道の方とご縁がないのですが「北海道女ってこんななのかにゃ?」などと想像してしまったことですよ。

「スケールがでかい」といっても、「地球が宇宙が」というでかさではなく、たとえば漆原教授のような破天荒な破壊神教授が北大にいたりする懐の深さとでもいいましょうや。

だいたい主人公のハムテルとチョビのコンビからして「こののんびりさはいったいどこから?」というぐらい呑気なテンポだし。ネズミ嫌いのハムテルの友人二階堂にしたってネズミに触られると気絶するぐらい嫌いなくせになぜ獣医学部に?という呑気さ。変な院生の菱沼なんかこののんびり軍団の中でもさらに「ローテンポ」ってのが性格になってるし。菱沼のローテンポなんかちょっと想像を絶しますよ。低血圧低体温(体温計に温度がでない)で低空飛行でも実は丈夫で何を食べても食中毒にならないのだそうな。

これだけのんびりしていながら視線はシビアでクール。そのギャップでなんともいえない笑いが腹の底からこみ上げてくるのです。おもしろいぞ~~!!佐々木ワールドはいっぺんはまると本当に癖になります。

このマンガの大ヒットでシベリアンハスキーが人気犬種になり、北大の獣医学部の競争率が上がったのは有名な話。まだ読んでない方20年前の作品とは思えないクオリティの高さなのでぜひお勧め。読んだ方も今こそもう一度読み返しましょう。のんびりしますよ~~。肩の力が抜けて楽~~になります。

2008年1月 5日 (土)

雨柳堂夢咄

15 残念ながらうちには「何でも鑑定団」に出せるようなお宝はありません。

唯一母方の祖父が持っていた日本刀ぐらいがちょいと価値があるかな?でもそれだって真贋のほどはさっぱりわかりません。それ以前に日本刀なんてちゃんと手入れしてピカピカに研いでないと意味ないし。「口に懐紙くわえてトノ粉でポンポン」なんてしたくないしできない。んで、今、刀は日置の父のところにあります。これでいいのよ。物はあるべきところに行くべきなのだ。

というわけで、日本の骨董マンガの最高峰「雨柳堂夢咄」(既刊11巻・波津彬子著・朝日ソノラマ)なんでございます。1巻初版平成5年。15年も前だよ。寒波に襲われた正月早々から炬燵の中で読み返しました。やっぱりいいなあ~~~!

明治の終わり?の東京?の片隅で営業している雨柳堂という骨董屋さんが舞台なんですけど。でてくる骨董でてくる骨董、どれもかれもが妖怪じみてるんですわ。持ち主を選んで自分の意思でもって動くし。んでも、そういう「魂をもった骨董」が存在してもおかしくないようななんともいえない空気が雨柳堂にはあるんだよなあ。

その空気を何より醸し出してるのが、雨柳堂主人の孫息子、蓮。蓮くんは骨董とか物とかの意思がわかるし、それにまつわる由来とか人の心とかも全部わかっちゃうのです。どうやら十代らしいのですが、作者自ら突っ込んでるようにいつまでたっても成長しないサザエさん状態(笑)。でも、そういう飄々とした傍観者的でちょっと不思議な蓮くんのキャラが、時代を超えた骨董の想いを伝えるのに、とってもマッチしているのであります。

蓮くんのおじいさんをはじめ、出てくるキャラがみ~んなのんびり時代離れしてるのですが、それもまたよし。

基本は一話完結。その一話一話がとてもよくできていて、波津氏はほんと短編マンガの名手だと思います。特にころころした動物がでてくるお話は出色。大好きなのは「背守りの犬」と「お使い猫」。どちらもころころの犬と猫が大活躍。でも生の犬猫じゃなくて人の思いを託された物なの。そこがいいのよ~。

唯一シリーズめいた贋作師の篁と釉月のシリーズもまたよし。この二人の間どうなるんだろ?とはらはらドキドキしましたが、(でもゆっくりのんびりの連載なのでかれこれ10年近く読者ははらはらさせられたんじゃなかろうか?)決着がついたようでよかったよかった。

せわしなく世知辛い世の中を、ひと時でも忘れたいときにはお勧めのマンガ。まったく違う時間がここには流れておりますぞ。

2008年1月 4日 (金)

SWEETデリバリー

14 「ヤング・ユー」という雑誌が女性誌の天下を取っていた時代がありました。綺羅星のごとく槇村さとる先生だの山下和美先生だの逢坂みえこ、岩館真理子、桜沢エリカ、谷地恵美子、・・・・・そうそうたるメンバーが連載していた雑誌でした。「ハチミツとクローバー」も「キューティー」休刊後、「ヤング・ユー」に身を寄せておりましたのです。

その「ヤング・ユー」がまさかの休刊!ほんと世の中何が起こるかわかりません。出版不況とは聞いていましたが、まさか集英社の「ヤング・ユー」がそのあおりを受けるとは・・・・・・。

鴨居まさね氏は、その後期の「ヤング・ユー」が産んだ異才です。

ふにゃふにゃした線でいながらリアルな絵。ぎりぎりのところでセンスのいい画面構成。そして、「え?そんなことが、こんなところの舞台裏で」とか「え?そうやってできてるのこれ?」とか雑学とコネタ満載でいながら、女心を外さないストーリー展開とか。「ヤング・ユー以外じゃ、この人なかなか息できないだろうな・・・・・」と思っていたら、最近「YOU」で田辺聖子原作のマンガを不定期連載始めました。鴨井氏の雰囲気に田辺氏の小説はぴったり!よかったよかった。いい選択だと思います。

鴨井氏の傑作「SWEETデリバリー」(全7巻・集英社)。「雲の上のキスケさん」(全3巻・集英社)とどちらを取り上げるか迷いましたが、こちらにしました。どちらもキャラが立ってておもしろいんだけど・・・・・・。

「SWEETデリバリー」は小さな手作りウェディング会社の名前。社長(兼カメラマン)のマコトと副社長で恋人(兼ドレスメーカー)のミヨコさん、そして飾るものなら何でもござれのデコラちゃんとお花の達人マヤさん、4人だけの会社だけれど、なにせ人生の一大事「結婚」に関わる会社。お客さんたちの間でもそして社員達の間でも次から次へとトラブルあり、涙あり、感動あり。なんでもなさそうなそういう小さな会社の日常を、これほどリアルにおもしろく読ませてくれる話術は天下一品!

特に「かわいいけれど女からは反感買うかわいさなのよね~」などと自らののたまうデコラちゃんの「仕事も男も中途半端なんだよ~」みたいな焦りや嘆きがとってもリアルで(それがいまだに自分にとってリアルだってとこが情けないんだけれど)、読ませてくれますよ~。こういうタイプの女の子、近くにいたらぜってえ友達になってないけど(笑)。

マコトと7年の長い春なのに、いまだに思いがこみ上げて「オエッ」となるぐらい愛してる情の濃いいミヨコさんとか、おうちが金持ちでだんながカメラマンで、留学でも何でもばんばんしちゃうほど恵まれてるけど「技術の出し惜しみはしないの。他のとこで自信あるから。」とデコラちゃんを弟子にしちゃう強力無比なマヤさんもたまらん良し。いずれも鴨居ワールドの住人で、なんともいえん味があります。

だまされたと思って一度お試しあれ。最初は「なんだこのふにゃふにゃの絵は~」とかとっつきにくいかもしれませんが、はまること請合います。ぜひぜひどうぞ。

2007年12月15日 (土)

お天気お姉さん

1215 世紀の怪作「お天気お姉さん」(全6巻・安達哲著・講談社)です。

なんというかねえ、これに関しちゃ山本直樹氏と一緒で毀誉褒貶が激しいの。「エロい」とか「グロい」とか。「さくらの唄」という安達氏のもうひとつの傑作があるけれど「成人図書指定」を受けて中学生が買えなくなってやんの。あ~~あ。

エログロの何が悪い。マンガなんだからさあ。

1巻初版が1992年でバブル直後の日本の世相を反映しててボディコンとかジュリアナとか今となっては歴史的な遺物になっちゃった代物もでてくるけれど、本質はこれ。「戦う女・仲代桂子」。

一介の「お天気お姉さん」に過ぎないけいこが、その身ひとつで、女と、男と、会社と、社会と、世間と、常識と、ありとあらゆるものと戦うお話なんじゃん(やりかたはむちゃくちゃだけど:笑)。

その誇りとプライドがあまりにもあっけらかんと突き抜けてパワフルなので(マスターベーションの仕方にしても:大爆)ついつい見過ごしがちだけど、けいこの戦いの影には多大な犠牲と努力と孤独があるわけよ。たいしたもんじゃん。ただただ非常識な女を描いてるわけでなく、そこんとこきっちり描いてくれてるんだから、これを傑作といわずして何と呼ぼう。まあ、怪作には間違いがないけどね。

TV放送で脱糞してけいこの奴隷となる超マゾ女河合みちことか、けいことどっこいどっこいの野蛮さを危ういバランスで知性派キャスターの仮面で覆い隠している島森かおりとか、高校時代の同級生でけいこに片思いし続け、みちこ以上の奴隷となる山岸とか、脇役のキャラも強烈無比。おもしろいぞ~~~!!

偏見を持たずにとにかく読んでみるべし。

あ、「さくらの唄」もお勧めです。人生の光と影をこれほど強烈に描いた作品も珍しいぞーー。

2007年12月13日 (木)

有閑倶楽部

1213 「女王」一条ゆかり先生の作品、何を選ぶか迷いましたが結局時節柄ということで「有閑倶楽部」(既刊19巻・集英社)にいたしました。いや、「こいきなやつら」も「デザイナー」も「正しい恋愛のススメ」も持ってるはずなんだけれど、ダンボールの山に埋もれてでてこないんだもん。情けない。

「有閑倶楽部」全編これ一条先生の世界全開でございます。「んな、ばかな~~~!!」「そりゃ、ないだろーーー!!!」展開は超ハイスピードで、論理は強引、登場人物全員ぶっとび。昔の少女マンガが揶揄された世界が絢爛豪華な絵巻のごとく展開しておるのです。

だからこそおもしろい。読み出すと止められない。なんというパワーでしょう。マンガ界を30年以上トップで走り続けてこのパワー。すごいね。

男性誌で求められる世界やディテールの「リアル」さなんて必要ないの。ひたすらオシャレで人間関係だけがリアルであればいいの。それが少女マンガなの。

財閥令嬢悠里の剣菱家なんて、財閥としてはまったくリアルじゃないでしょ?この嘘臭さがいいのよ~~。「家の設定はぶっ飛んでるけど、家族関係はとてもリアル。」ここがツボね。親父さんの万作さんはおふくろさんの百合子さんに笑えるほどまったく頭が上がらない。これがリアルでいいの。また百合子さんとんでもなく強い。剣菱家が出てくる話がやっぱり一番おもしろいわ。

これがTV化されているという話ですが、不可能でしょ。このおもしろさの再現は。「少女マンガ」というフィールドでしか成立しないし、それで何が悪い?ってなもんだ。

2007年12月11日 (火)

うる星やつら

1211おおおおおっと!!

と~うとうこれがでてきました。

「うる星やつら」(全34巻・高橋留美子著・小学館)です。「サンデー派だ!サンデーが好きなんだ!」という人間が高橋先生を語らずにはおれますまい。それぐらいサンデーの色を、それどころかマンガ界の色を変えてしまった作品。1巻初版昭和55年(1979年)。「昭和」だってよ。

オタク男達の絶大なる人気と支持を誇り、彼らによる腐るほどの評論があります。よく言われることだけれどラムちゃんてのは母性の塊で、出てくる女たちはそれぞれが「女」というものの極端な典型で、ほとんどのタイプが出揃ってるんだもの。「女の子のカタログ」みたいなもので、そりゃ男心を鷲掴みにするよなあ。

高橋先生、さまざまなタイプの「女の子の典型」を、すばらしい筆力で簡潔に過不足なく、しかも誰にも真似できない独特のギャグとユーモアで表現なさってます。すごいよなあ。もう30年近く前の作品なのに、読んでも飽きない。色あせない。(さすがに絵は古くなったけれど)

「男」と書いたロゴ入りシャツの竜之介が好きでねえ。もちろん竜之介の親父込みで。あと海王星の雪女おユキちゃん。男では馬鹿げた金持ちの面堂終太郎。火を吐く子鬼のテンちゃん。それぞれのキャラもすばらしいですが何より高橋先生は群像劇になると俄然光ります。キャラがたくさんでてくればでてくるほどおもしろい。

昔小学館の編集さんと話す機会があり「高橋先生は女子大のときの合コンで、男のとんでもない本性を見てしまって、それ以来男性不信なのだそうだ。だから『わたしより才能か収入がある男でないとつきあわないし結婚しない』とおっしゃっている。だから高橋先生はいまだ処女である。」と聞き、「高橋先生より才能か収入がある男が、日本にいるのだろうか・・・・・・?」と、人事ながら暗澹たる気持ちになりました。

それ以来「高橋先生が結婚した」というお話は聞きませんが、どうなんでしょ?

2007年12月 7日 (金)

パームシリーズ

1207 伸たまき改め獣木野生の「パーム」シリーズ(現在パーム9.「蜘蛛の紋様」を連載中・新書館)であります。

「マンガを文章で説明する」というのはある意味愚かなことです。作者が文章で説明できるなら文章で表現しているからです。にもかかわらず、こうやってレビューを書いているのは、蔵書を整理していたらあふれる心が抑えきれず隔靴掻痒もいいところでも何かいわずにはおれなくなってしまったから。

とはいえ、文章ではとてもよさを説明しきれないマンガは数多く、その中でもこの「パーム」シリーズはピカイチかも。

まず主人公が説明できない。ジェームズ・ブライアンという天才児の生涯を大河ドラマでやってるんだけれど(1巻初版が1984年)、このジェームズの名前がマイケル・ネガット(これは本名)だったりジェイク(これはあだ名)だったり。マフィアの御曹司にして世界的天才児。元少年刑務所の主で、元心臓外科医の探偵カーターの助手にスカウトされて・・・・・・って、ここまででもうかなりてんこ盛りでしょ?

登場人物もみんなかなり変で、日系アメリカ人のカーターも腕力はまるでだめでしかも離人神経症なのに、やたらめったら弁が立って人妻と浮名を流すドンファン。アフリカの奥地からカーターに引き取られたアンディはあふれる芸術的才能を持ちながらまったくの野生児。しかもジェイムズを飼っていたライオン代わりに抱き枕にして寝ないと眠れないというわがまま。どうも二人の間には超自然的な絆があるらしい・・・・・・。もうこれでもか、これでもか、って設定。

でも、お話の運び方とか絵や文章はとてもオーソドックス。最初、設定を飲み込むまではたいへんだけれど、このリズムにはまると癖になってしまいます。んで、人生のかなりえぐいところまで切り込んで表現してるので、シリーズシリーズごと、ものすごく感動します。

特に「パーム3.あるはずのない海」と「パーム5.星の歴史ー殺人衝動」はものすごくよかった。読み終わった後、感動で身動きができないぐらいでした。

大河ドラマの「パームシリーズ」も、そろそろクライマックスが近いらしく、ジェイムズの出生の秘密も(衝撃!)暴露され、今はカーターの幼少期の話に入ってます。もう4半世紀近い連載になるわけだけれど、最初からラストは決まっていたらしいです。どうなるんでしょう?これは読まずにはおれません。

ごひいきは、体は小さいくせに超強気で口が悪いボンボン刑事フロイド・アダムズです。

2007年12月 6日 (木)

め組の大吾

1206 世の中には警察フェチとか自衛隊フェチとか鉄道フェチとか消防フェチの人種がいますね。例外なく男です。理解に苦しみますが、3歳の甥っ子がまだ回らぬ舌で「こうしょさぎょうしゃ」「はいぱあれすきゅう」とか一発で覚えるところをみると、男の本能に組み込まれたものなのかもしれません。

ハリウッドの映画でも何年かに一度は「消防士モノ」が作られます。でも、日本のマンガで本格的消防士モノはこの「め組の大吾」(全20巻・曽我正人著・小学館)が最初ではなかったでしょうか?

このマンガが流行った頃は(1巻初版1996年)、消防官の採用試験の倍率が一気に跳ね上がったそうな。さもあらん。このマンガ、主人公の大吾のキャラ設定とか、ストーリーの運び方とか荒っぽいところがあるのに、すごくパワーがあるんです。「次どうなるの、どうなるの?」と読ませずにはおれないパワー。次から次へととんでもない災害が起こるしね。でも、どんなに驚天動地の災害でもそれだけじゃドラマにならないのに、そこのところはうまいことキャラの私生活とか現実とかと絡ませて、飽きないようにしてくれてます。

よくあることだけれど、主人公の大吾と落合先生は「もう勝手にやってくれ」って感じでしたが、メガネ男子好きのわたくしとしましてはライバルの甘粕がよかった。ハイパーレスキュー隊長の神田も。後はなんと言っても『マザーコンピューター』の異名を持つ切れ者忍足ミキかな。作者の曽我氏、この手のタイプの女性がタイプなんじゃろ・・・・・・?というぐらい忍足司令補いきいきと描かれています。彼女が大活躍する「ヘリ墜落事故」と「千石市国際空港爆発」のあたりが一番おもしろい。

曽田氏、その後スピリッツでバレエマンガ(!!)の「昴」を描いてたんだけれど中断。「ええええ?」と思ってたら最近復活した由。慶賀の至り。

2007年12月 5日 (水)

おいしい関係

1205 「おいしい関係」(全16巻・槇村さとる著・集英社)でございます。「白のファルーカ」とどっちにするか迷ったんですがね。結局食い意地でこちらを選びました。

巨匠槇村さとるの王道。明るくて素直で頑張り屋の百恵ちゃん。亡くなったお父さんがたいへんなグルマンでありとあらゆるおいしいものを舌に叩き込まれたお嬢さん。彼女が惚れたのが何の変哲もない町の洋食屋プチ・ラパンのコンソメスープ。実はそこには3つ星シェフの織田がいたのだ!

超一流のフレンチを作る織田だが、コミュニケーションのとり方が下手で洋食屋の雇われコックにまで落ちぶれて(本人そうは思ってないらしいが)しまっていたのだ。その彼も百恵の明るさに触れていくうちに、だんだんと変わってきて・・・・・・・・。というのがメインの筋書き。

まあね、織田のひねくれ方も相当なもんだったけど、「さすが槇村さとる!」と思わせたのが、百恵を成長させる材料として出てきた女達のひねくれぶりの描写。特に加奈子さんと、ミキさん。二人とも最初「百恵に意地悪をするライバル(恋と仕事と)」としてでてくるんだけれど、槇村氏、この二人がひねくれていじけてしまった事情や背景を実に丁寧に描いてくれてます。「あああ、こんなの抱え込んじゃったら、そりゃ世の中をすねたくもなるよな」と納得。その上で二人とも百恵に救われるんだけど、そこらあたりも嫌味なくさわやかに表現してるところがさすが。

あと、織田の育ての親の強烈千代ばあとか、織田のライバル軽そうだけど実力派の高橋だとか、昔ながらの頑固料理人だけど筋は通すよ多峰さんとか、見所は多いよ。

槇村マンガに共通しているんだけれど「何もかも失って、もう何も希望がない」と一見思うような状況でも、「見方を変えればそれほど悪くない」と思わせてくれる。落ち込んだときよくこれを読むもんな。

でてくる料理がとてもおいしそうで、それだけでも一見の価値あり。

でも、これを描いたとき槇村氏本人は味覚障害だったそうな。にもかかわらずこのクオリティ。さすがプロ。