「ヒカルの碁」(全23巻・原作ほったゆみ/マンガ尾畑健/監修梅沢由香里二段・集英社)でございます。
今となっては昔日の夢となりましたが、少年ジャンプが日本を席巻した時期がありました。四大新聞よりも発行部数があり、電車に乗るとサラリーマンも学生も「男という男がみんなジャンプを読んでいる」というありさま。はっきりいって何かの宗教みたいで薄気味が悪かった。いわば「友情・努力・勝利」というお題目を唱える新興宗教みたいなものだと思ってました。
そのジャンプの栄耀栄華に翳りが出てきたころに、「ヒカルの碁」が始まりました(初版は1999年)。このとき初めて「ジャンプというのはなんと懐の広いマンガ雑誌だ」と見直しましたね。なんせ囲碁ですよ!将棋マンガは数々あれど、囲碁マンガってのはほんとに見たことがありませんでした。それを少年誌でやる!しかもあの少年ジャンプ!
案の定連載時は浮きまくってましたけど。それこそがこのマンガが傑作であることの証。今も昔もジャンプが切り捨ててきた「少年の成長」とか「それを促す人間関係」とかを実に丁寧に描いてくれてます。
「ちょっと待て。ジャンプの標語は『友情』だ。人間関係は描いてるだろ!」
違うでしょ。ジャンプが描いているのは「ライバル関係」だけ。しかもどんどん強力になるライバルを登場させるだけ。同世代で同じジャンルに携わるしかも同性(ま、男同士って事ね)との関係を描くことには実に熱心だけど、世の中ってのはガキンチョの男だけでできてるもんじゃないでしょ?じじいもいればおばさんもいる、あかんぼもいればおっさんもいるの。生きてればそういう人たちと必ず何らかの関わりを持たなきゃならなくなってくるんだって。
「ヒカルの碁」じゃ、主人公の進藤ヒカルの家族とか、ライバル搭矢アキラの家族とか実に丁寧に描かれてました。あと囲碁に関係のない学友とか、もちろん囲碁界に関わる大人も子供もプロもアマも、主人公が関わりそうな人間関係をなんと細やかに描いていることでしょう。ヒカルが対局しているシーンはもちろん迫力なんだけれど、なんてことない日常のシーンでも絶対に飽きない。すごいことですよ!これは。
ほったゆみ氏のネームによって小畑健氏の華麗にして繊細な絵がとても生かされてました。このタッグを組ませた編集のセンスはすばらしい。落日のジャンプが生み出した傑作であると思います。
あ、登場人物の中で好きなのは、「中学生のクセに袴と扇子、将棋も碁もやる勝負師加賀」とか、「いつでも白いスーツです。こだわる男の緒方七段」とか、「軽いのりだけれど押さえるところは押さえてるよ、囲碁からパソコンから何でもござれ中国囲碁界の兄貴・楊梅」とかです。
もちろん「囲碁界のプリンス搭矢アキラ」も、ジャンプのライバル達の中では飛びぬけて毛並みがよさそうで大好き。
このマンガを読んで「碁を習いてええ!」と思いましたが、いまだ果たせず。いつかやりたい「右上スミ小目」。
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