明治の文豪志賀直哉の短編に「清兵衛とひょうたん」という作品がある。清兵衛という少年が、ひょうたんを育ててその実を加工することに少年らしい熱心さで取り組み、大人顔負けの加工技術を持つようになるが、父親が彼の情熱をまったく理解せず、チクチク文句を言った挙句ある日清兵衛のひょうたんをすべてぶち壊してしまうという話であった。「明治の昔から、親ってのは子供が夢中になることを胡散臭くおもってたんだんだなあ・・・。」とその頃(今も)マンガばっかり読んでびりびり怒られていたので、親近感を持ったことである。さらに、その中で語られる清兵衛のひょうたんの加工テクがたいへんおもしろく印象的であった。
いわく、
「どぶに沈めて中を腐らせたひょうたんの口を切り、種を出し」「そのひょうたんを掘りごたつの中に入れて表面に汗をかかせ、」「すかさず父親の晩酌の酒の飲み余しで、丁寧にその汗を拭いていく」「それを、1週間以上続ける」というような内容だったと思う。おもしろそうだったので自分もやってみようと、ひょうたんの種を一袋植えた。が、お馬鹿な子供だったので、双葉が種の殻をかぶって出てきたのを助けてやろうとして種の殻を無理やり双葉から毟り取り全部枯らしてしまった。
志賀直哉は「日本文学史上NO.1の美男」といわれる作家である。確かにいいかげん爺になった写真でも、瞳がきらきらした美しい頭蓋骨の形をした顔が写っている。モテたらしい。さもあらん。
17年前に亡くなった祖父が椿好きであった。よってうちの庭と畑には、200種近い品種物の椿が生えているのである。椿、山茶花類は、秋から春にかけて花をつける。次から次へと色んな形、色、模様の椿が咲いていく様は壮観である。(わたしにはとてもとてもすべての種類を同定することはできんのだが・・・)かなりの貴重な名花も混じっており、銭になる、という種類のものではないが、これはこれでありがたい「遺産」かな?と。「椿屋敷農園」の名前は、これに由来する。家そのものは「屋敷」というほどの代物ではなく、築50年近い普通のボロ屋なのだが、ちょっと気取ってみたわけだ。この実は「卜伴」という美しい抱え咲きの黒椿の実である。
浄土真宗西本願寺派である。日本で一番一般的な宗派だ。申し上げておくがわたくしには信仰心のかけらもない。にもかかわらず、毎朝ご飯とお茶を供え、お香を焚き、花を供えている。鈴を鳴らして手を合わせて拝み、野菜の初物も必ず供える。さらには、盆と正月には、掃除までしている(盆と正月しか掃除せんのか?)。なんだこりゃ?自分でもわからん。しかし最近「ひょっとして、わたしはこれがカッコいいと思っているのかもしれん。」と気づいてしまった。考えてもみなはれ。「アッツー、アッツー、たまらんー!」とかいいながら、ぐうたらぐうたらしてるより、おそらく自分ちの家具の中で一番値が張ったであろう、黒漆と金箔でギラギラの函をピカピカに磨きたて、嗅ぎようによってはまあいい香りともいえないこともない香を焚き(香道はお貴族様のたしなみであるぞよ)、自分ちの畑で一番派手な花と野菜をお供えする。盆などは提灯まで灯すのであるよ。はなはだ派手なイベントではあるまいか?実は正直なところたいへん罰当たりなことに「真言宗なら良かったのになあ。密教って派手だよなあ。」などと思っていたりしているのである。ま、浄土真宗でも充分派手だし。宗派変えるのめんどくさいし、仏壇は恐ろしく値が張るし、ありがたく、ご先祖様から受け継いだ宗派と仏壇を大切にしているのである。ありがたや、ありがたや。
ひょうたんには魔力がある。昔からひょうたんの出てくる話は妙に印象に残る話が多かった。「千夜一夜物語(いわゆるアラビアンナイト)」の中の「船乗りシンドバッドの航海」の中の「海の老人」の話の中にも出てくる。
航海で遭難したシンドバッドは無人島にたどり着き、そこで痩せこけた老人に出会い、「わしをおぶってくれ」と頼まれる。実はその老人は「海の老人」という妖怪で、日本でいう「おんぶおばけ」みたいなものだったのだ。老人はシンドバッドに肩車をさせたまま、一日24時間離れなくなってしまう。こわー。その上「あっちへ行け、こっちへ行け、」と好き放題に指図し、いうことを聞かないと落ちる寸前までシンドバッドの喉を太ももで締め付ける。このときの、シンドバッドの老人に対する肉体的な嫌悪感が妙にリアルでね。犯されてる感じみたいな・・・。結局ふらふらになったシンドバッドは、島にひょうたんと葡萄が成っているのを見つけ、老人の隙をうかがって、ひょうたんの中に葡萄をつぶして詰め込み、葡萄酒を造る。これがなあ、いかにもうまそうなのよ。わたしは酒が飲めないのに、匂いまでしてきそうだった。先に嫌悪感のリアルさがあるから、この鼻や舌の感覚もリアルに感じたんだと思う。案の定妖怪「海の老人」もそのひょうたんの中の酒にひかれて、シンドバッドから無理やり取り上げて、一杯やり始める・・・・・。
「千夜一夜物語」って大人向けの話だよねえ。まことに助平で残酷な話ばかり満載なのに、「子供向け」とやらに改悪して、一番おもしろいところをカットして読ますのはどうかと思うよ。世界的古典を「なんだこんなもんか」と思うのは返って危険だよ。危ないところを読ませたくないなら、最初から読ませるな。「大人だけが楽しめるのよ。早く大人になりなさい。」でしょ?
お知りあいに92歳の国会議員の未亡人がいる。この人が知る限りでは最強のギャンブラーである。何せほとんど歩くこともかなわないのに、毎朝ベッド上で日経新聞を読む。そして株を動かす。「昨日はン百万儲けましたよ。」なんてお話がざらである。亡くなった旦那様が徒手空拳の一文無しのときから糟糠の妻として支え、選挙参謀として何十年も過酷な国政選挙を勝ち抜いてきた。「選挙ほどおもしろい博打はありませんでしたよ・・・ほほほほほ。」
ONE OUTS(甲斐谷忍著・集英社・既刊14巻・ビジネスジャンプにて連載中)は既成の野球漫画のアンチテーゼとして描かれている。とにかく主人公の渡久地がなあ、ギャンブラーなのよ。一応ポジションはピッチャーなんだけど、球速120kでしかもストレートしか投げることができない。どうよ。いまどき甲子園球児ですら150kの球を投げるご時世によ。やってけるのか?プロとして?・・・・・。それが、渡久地は決して負けない。勝負師なのだ。悪魔的な洞察力で、相手の心理、弱点を読み、天候など自然現象まで利用して、裏の裏の裏をかく息詰まる心理戦。「エーッ?野球規則にこんなルールが?」舌を巻きますぞ。野球選手としての渡久地そのものがすでにギャンブルで、オーナーと「ONE OUTS契約」なるギャンブルをしてる。「おれがワンナウト取る毎に500万支払ってもらう。逆に失点したらアンタに5000万支払おう。」野球そのものが賭博性の高いスポーツだ。高野連が何と言おうとね。満塁走者一掃ホームランで一気に4点入るんだもんな。それに加えてこの作品じゃ、その野球を囲む世間とも賭博をしている。しかも勝つ。痛快。
作者の甲斐谷忍氏は鹿児島出身で、さりげなく甲南高校がでてきたりしている。薩摩隼人でしかも工学部だったらしい。まあ、そのせいではないだろうが、とにかく女が一人もでてこない。一人もだ。それこそこのご時世に青年誌でお色気ヌードの一つもなくて大丈夫なのか?と心配になるほどすがすがしい。いや、鹿児島男だから女が描けないんでしょ?なんて言ってないよ。ほんと、一言も。
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