夜中に目覚めてトイレにいったらば、トイレの前廊下にアシダカグモのメスが卵嚢を抱えてうろうろしていました。その大きさ優に手の平サイズ!あまり真夜中に見たいシロモノではありません。
アシダカグモは実はゴキブリを食べてくれる益虫。いじめると噛み付いたりするけれど、基本的には恐ろしげなカッコウに似合わぬ平和主義者。だいたい蜘蛛の仲間で人死にが出るほどの毒を持つのはセアカゴケグモぐらいといいますね。タランチェラもカッコばかりで、それほど危険ではないそうで・・・・・。
でも特に西洋じゃ、蜘蛛って嫌われてるみたいだなあ。昔、「黒い蜘蛛」(スイスの牧師・ゴットヘルフ作)って小説を読んで、むちゃくちゃ怖かった覚えがあります。あんまりキリスト教圏のホラーって怖いと思う事がないんだけれど。これはマジで怖かった。
横暴な領主に苦しめられるスイスの農村が舞台で、その領主の過酷な治世に疲れきった農民たちが、一時的に税と苦役を逃れるために悪魔と取引をしてしまう、と。代金は洗礼前の赤ん坊。みなこれが罪だとわかっているんだけれど、「悪魔なんかごまかせばいい。いざとなったら自分たちが苦しむより、何も知らない子供を差し出してしまえ。」と、危険な契約を交わしてしまう。よくある集団心理よな。その契約書は村の一人の女の頬に悪魔がしたキス。そのあと子供が産まれるたび、二回三回と悪魔を欺くたび、女の頬のキスの痕に大きな黒い蜘蛛の形のあざが浮かび上がってくるわけよ。
やれオソロしや、その女は頬の蜘蛛に突き動かされて、村に産まれた新生児を悪魔に引き渡そうとする。その現場を神父様に押さえられ、聖水をかけられたところが体がちぢんで黒い蜘蛛になって!!
それからその村では、家畜が人が、黒い蜘蛛に襲われるようになってしまう!蜘蛛が触ったものすべてが、黒く焦げて高熱を発し、体中が真っ黒になって死ぬ・・・・・(今にして思えばこれは黒死病の暗喩?)。どんなに逃げようとしても黒い蜘蛛からは逃れられない。逃げた先で黒い蜘蛛は静かに待ち構えている(この待ち伏せの描写が怖かった)。むちゃくちゃを言って村民を苦しめた領主や騎士たちも、ある日城に現れた蜘蛛の一走りで全滅。悪魔は契約の履行を迫っている。「洗礼前の子供を引き渡せ。」と。
恐怖に震えるのみの村人たちの中で、ただ一人子供を思う母親だけが立ち上がった・・・・・。
なにせこちとら仏教徒でございますからして、キリスト教の神や悪魔がいまいちピンとこないんで。「悪魔払い」とかちーとも怖くないんですが。この場合敵が「蜘蛛」でござんすからねえ。うちにはアシダカグモがうろうろしているし。じわりじわりと静かに村人を追い詰める蜘蛛の描写がか~なり怖かった。
大人になってから読み返してみると、村人たちの集団心理、とくに「スケープゴートを出せば済む」とか「自分さえ良ければ他人はどうでも良いエゴイズム」とか「契約の怖さ」が細かく描かれていて、こういう人の心の恐ろしさがあって初めて蜘蛛が恐ろしいのだと、やっとわかりましたです。
本当に怖いのは化け物全とした蜘蛛ではなく、人の心。こわ~~~!
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