椿屋敷のお客様

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2008年8月14日 (木)

螺鈿迷宮

0814 「螺鈿迷宮」。最近お気に入りの海堂尊の白鳥・田口シリーズの番外編です。

番外編とはいえ、今まででてる中じゃ一番身につまされておもしろかったなあ。危険な書だ。

なんと言ってもね、悪役の桜宮病院のメンバーが魅力的過ぎてさ。「死にたいやつは死なせてやれ」と嘯く戦中派(軍医経験アリ)の巌院長からして「うんうんそうだそうだ」という説得力満載。

そう「死にたいやつは死なせてやれ」。わたくしもそう思います。無理やり生き延びさしてなんとする?「生きてるってすばらしい」と思えることができないやつに何の権利があって生きることを強要する?

寝たきり認知症の祖母の介護を5年しました。その間祖母は「死なせてくれ、殺してくれ」と数限りなく訴えていました。でも殺すことはできなかった。日本の法律がそれを許さないから。

それについての実に魅力的な解決法を「闇の桜宮病院」が提示してるの。法律でなく「黄泉の女王」が支配する世界でのみ有効な手段だとわかっていても、とてもとても心魅かれる手立て。ううううん、ほんとうに危険だ。

向こう側が闇に霞んでしまうほど並べられた解剖臓器入れの青いバケツのイメージといい、永遠に続く螺鈿細工の壁の部屋のイメージといい、ひんやりと冷徹でありながらとても清潔。

白鳥が巌院長を評したセリフ「巌先生は桜宮の闇を支えてきたんだね。それも極めて誠実に」というのが良かった。強い光の影には濃い闇ができる。生きるってのはそういうことだもんなァ。重いテーマをよくここまでわかりやすく書いてくれたよなあ。

あと、白鳥の部下、氷姫・姫宮が大活躍!一見アニメのフィギアかサイボーグみたいな美形なんだけれど、これがまた出来損ないのサイボーグみたいな一般人とはズレまくった挙動の数々、一見の価値アリ。全体的に暗いトーンで貫かれた本作の中で、姫宮の明るくド外れた破壊力はすごい!よくこんなキャラ思いつくよなあ。いつもいつも思う。「こんな連中の棲息・出没を許す大学病院てどんなとこよ?」

シリーズを読んでない方にもお勧め。この本から初めてもよし。おもしろいぞお!

2008年7月24日 (木)

ナイチンゲールの沈黙

0717まだ子供の頃、一冊の本、一枚の絵、一本の映画、なんでも感動してしまうと「もうあたしの一生でこれ以上感動することはない。もう心は動かない」などと浅はかにも浸ったりしてました。あたかも「初恋の人が永遠の人。もうこれほど誰かを愛せない」とガキンチョが初めての恋に酔うように。

現実には人生それほど捨てたものでもなく、年を経たら経た分だけ、そのときにふさわしい「夢中」が必ず待ってるものでして。ありがたいよなあホント。その気になれば絶対に退屈することはありません。生きてる限り心もまた動くものなのです。

なんちゅうて、最近は海堂尊にはまってるもんで気取ってみました。「田口・白鳥シリーズ」第二弾「ナイチンゲールの沈黙」(宝島社)でございます。

第二弾にもかかわらず大傑作!

も~~~、ありとあらゆる要素が詰まっててジャンルわけ不能。あいかわらず架空都市・桜宮市の大学病院が舞台なんだけれど、大学病院って・・・・・・・・ホントにこんなに愉快なとこなの?

愚痴外来の田口絶好調!ってことはあいかわらずぬらぬらヒョンヒョンの昼行灯ってことですけどね。それにもまして白鳥絶好調!つまりゴキブリぶりに磨きがかかってるってことで。プラス今回むちゃくちゃ登場人物増えました。それもどいつもこいつもキャラ立ちまくりでカッコいいやつばっかり!それにしても海堂氏、いったいどういう交友関係をお持ちなのでしょう?前作でも思いましたが、こんなやつらばっかり身の回りにいたら胃が持ちません。

ざっとあげてくだけでも、強烈アル中の伝説の歌手水落冴子でしょ、元医学部のその変態マネージャー城崎でしょ、田口の同期がまた強烈、放射線科の世界的権威で「がんがんトンネル魔人」島津でしょ(あたしの大好き職人タイプ)、救急救命部の将軍速水でしょ(からりと笑うカッコいい!)、看護師がさらに強烈「眠り猫にして千里眼」猫田師長(こんな看護師長ありなの?いつも居眠りしてるのよ。でも多士済々の今回の話の中でも一番好き)、おまわりさんも出てくるよ警察庁キャリアの「デジタルハウンドドッグ」加納でしょ(これまたむちゃくちゃカッコいい)、加納に振り回されてお遍路に飛ばされそうなその部下玉村でしょ、これに加えて鮮烈な不良少年(しかも両目摘出の手術を受けなきゃいけない)瑞人でしょ、白血病の美しくクールな白雪姫由紀でしょ・・・・・・・・他にも他にもたくさんでてくるのに、キャラが明快に書き分けられてお話が論理的に進められてるので、ものすごくわかりやすくおもしろいの!

そしてここんとこが肝心なんだけれど、海堂氏って基本がギャグマスターでユーモラスなんだわ。深刻なシーンにもそこかしこにお笑いを散らばめずにはおれんらしい。笑えるんだってば。

特に小児科の子供たちに人気という設定の架空シリーズ「ハイパーマン・バッカス」の話にはバカ受け!なんでこんな下らんこと思いつくかなあ!しかもこれほどシリアスな設定の深刻な話なのにこんな贅沢なお笑いを乗っけることができるかなあ?

大笑いして・・・・・・考え込んで・・・・・・・最後には感動の嵐。

すごいよ~~このシリーズ。これまた絶対お勧め。本好きはぜひこれを読むべし。

2008年7月20日 (日)

チーム・バチスタの栄光

0720_2  これずっと読みたかった本なんですよ!実は半年前から市立図書館に予約を入れてたんですが、待てど暮らせど順番がまわってこない人気ぶりに豪を煮やしておりました。したらばなんと文庫が古本屋に出ておりましてな。「してやったり!」と早速購入。

期待を裏切らぬおもしろさ。無我夢中で読みましたですよ!

著者・海堂尊氏は現役勤務医、大学病院の内実がそれはそれはリアルに事細かく描かれています。もちろんそれはおもしろさの重要なバックグラウンドなんですが。でもなによりかにより、登場人物です。出てくる人出てくる人、それはそれはもう立ちまくりのキャラばっかり。大学病院て、どこの大学病院もこんな強烈な医者や看護師ばっかりいるんでしょうか?わたくし今まで大学病院も普通の病院も入院したこと無いもんでわからないんですけど。なんか凄いですよ。

主人公にしてワトスン役の「愚痴外来」担当の万年講師、田口公平。本人はどうやら自分を常識的な平和主義者みたく思っているらしいですが、なかなかどうして大学病院みたいな魑魅魍魎跋扈する魔窟で、あくまでマイペースを貫き通し「出世に興味なし」のスタンスを取りながら結局自分の欲する場所を確保するしたたかさはかなりのもの。

見た目はタヌキ性格はもっとタヌキな高階病院長や、田口を愚痴外来で補佐する定年再雇用の地雷原藤原看護師といった年経た妖怪たちのキャラも凄いけど、やっぱホームズ役の『火喰い鳥』白鳥圭吾よね~~。こんな強烈なキャラ初めて見た。なんせ初めて白鳥を見た田口が持った第一印象がゴキブリよゴキブリ!!「擬音語で『ギトギト』、擬態語で『ツルン』」「頭のてっぺんからは、細くて長い触覚が出ていて、ゆらりゆらり」「つややかに黒光りするゴキブリ」などと言いたい放題のご丁寧な描写。んでもってこの白鳥が厚生労働省の第一線のキャリアなのだから世も末というものだわ。別名「ロジカルモンスター」。とにかくあちらこちら行くところなすところトラブルだらけ。「イヤもう、なにこれ!」としか言いようのないキャラなんだけれど、もう目が離せないの。

なにこれ?作者の知り合いにひょうっとしてこういう人いるの?ほんとにそばにいたらストレスで胃に穴開くわきっと。

お話はある地方国立大の大学病院で、花形助教授率いるバチスタ・チームの手術で不審死が続いちゃって、その内部調査を田口が始めるところからなんだけれど、もう、息をつかせぬおもしろさ。

思いもよらぬ展開、そして大どんでん返し!

あまりの事に思わず立て続けに3回読み返し、続編の「ナイチンゲールの沈黙」「ジェネラル・ルージュの凱旋」さらには「螺鈿迷宮」に「ブラックペアン1988」まで、読んじゃったよ。

シリーズを読めば読むほど「あれとあれがこう繋がって」「あの人とあの人がこういうつながりで」と緻密に構築された世界観が明らかになってきて、「うわ、まだまだ読みたい!このシリーズ」と禁断症状がでてきちゃいます。危険だわこの本。+++++++++++++

2007年12月10日 (月)

一瞬の風になれ

1210 去年の年末からこの一年の間に、今まで「児童文学」とされてきた分野のいずれ劣らぬ傑作三作を立て続けに読むことができました。

「バッテリー」「守り人シリーズ」そしてこの「一瞬の風になれ」(全3巻・佐藤多佳子著・講談社)です。

もう「児童文学」とかのジャンル分けなんかホント無意味。一昔前のイメージは「澄んだ眼をした恐ろしく素直な少年少女が、すさんだ大人の心を解きほぐすお話」とか「戦争で苦労する話」とかそんなんばっかりだったのですが・・・・・。もう、ぜんっぜん違う。

この「一瞬の風になれ」にしたって、「子供が、大人が」と読む人を選ばない。ものすごくおもしろい。主人公の新二がすごくいいやつで、ジャンルを問わず久々にこんな素直な主人公をみました。といっても見た目は髪の毛まっきっきの陸上部員だけれど。いまどき髪の毛黄色いのに意味なんかないしなあ。

新二のお兄ちゃん健一がサッカーの天才で、親友の連がスプリントの天才。男の子が身近にこんな二人の天才を抱えてたら普通ぐれるよ。

なのに新二ったら、むちゃくちゃ素直に少しづつ少しづつ自分の心と体を鍛えていって、ついに連と100mを競えるぐらいに成長していくの。もおおおおお、その素直さったら。思わずこちらの背筋も伸びちゃうぐらい、真摯なの。でも、ストイック一本やりじゃないの。ちゃんと周りに目配りができて、人に気も使えるの。なんてったって部長になっちゃうぐらいだから。ホントいいやつだなあ、新二。

この作品が「陸上」がテーマと聞いて、ありがちな、もっとガチガチな天才くんが悩み苦しむ話かと思ってました。だって陸上だし。ぜんぜんそうじゃなかった。どちらかというと普通のセンスの持ち主の主人公が、いまどき珍しいぐらいの普通の努力で、自分の肉体に自分の望む能力をつけていく話でした。なんという、すがすがしさよ!

100mだけじゃなくて、どちらかというと「4継」と呼ばれるリレーがメインのようにでてくるんだけれど、これが個人競技の陸上の中では唯一のチームプレーなのね。んでこのリレーが読んでてものすごく興奮するんだわ。手に汗握りますよ。リレーのバトンワークの話とか。チームの人間関係がモロに走りに影響して、単純な4人の100mラップの合計よりはるかに早くなったり、遅くなったり・・・・・・・。「最強の4人」を集めたからって「最強のチーム」ができるわけじゃないんだよね。当たり前だけど。

脇のキャラもとてもよし。400m専門なのにリレーにでるため黙々と朝連をする根岸とか。強豪校のライバルで、レース前に必ずべちゃくちゃしゃべらなきゃ気が済まない高梨とか。でも、一番は三輪先生。元ヤンキーだったのが更生してなぜか陸上。でも無理して故障。母校の陸上顧問になるんだけど、この先生のいつもはのんびりしてるのにいざというときビシッと決める強さがいい。いい先生だよ~~。

いやあ、今年もいい本に次々当たり、いい年でありました(ちょっと早いけれど)。どうぞ、みなさまもこの興奮とさわやかさを味わってください。必読ですぞ。

2007年11月28日 (水)

天と地の守り人

1128 「守り人シリーズ」の最終話、「天と地の守り人三部作」(上橋菜穂子著・偕成社)です!

ああ~~~ッ、読み終わってしまったよ!予約を待っているのは長かったのに読むのはあっという間だったよ。

ラストまで期待を裏切ることのないすばらしい話でした。ああ、もう褒める言葉が足りない。

バルサがタンダがチャグムがトロガイがシュガが、ジンや帝やラウルやアスラやチキサなんかに至るまで、でてくるもの皆が収まるべき場所に収まりました。なんと言う感動。

とうとうバルサがタンダを「つれあいだ」と認めました。壊疽を起こして瀕死のタンダを必死で介抱するバルサ。そして回復したタンダ、とこの物語でははじめての静かなくちづけ。ああ、こんな心にしみる愛の表現は久しぶりでした。よかったね、バルサ、タンダ。

そしてなによりチャグム。「精霊の守り人」のときのガキンチョが、こんなに成長してしまうとは。ほんとうに苦労したんだよね・・・・・・。「蒼路の旅人」で夜の海に身を投じての危険な夜間遠泳に始まり、ロタ、カンバルと命がけの同盟交渉、そして見事同盟を果たしてからも大国タルシュとの壮絶な戦い。こうやって母国を必死で救おうとして帰ってきたチャグムに心無い仕打ちをする父帝とその側近達。きみの苦労は涙なくしては読めません。

とうとう、なりたくもない帝になってしまうけれど、きみなら大丈夫。閉ざされた奥津城のような宮から、いつか必ず人間として出ることができるでしょう。それを予感させる希望に満ち満ちたラスト。

よかったなあ・・・・・・。

それにしても上橋氏、ファンタジーの要である異世界の世界観のイメージも見事ですが、現実の人間達の国政や国家間の連衡、交渉等についての見識や表現も見事。大国タルシュが新ヨゴに攻め入ったときが、ちょうどナユグ(異世界)の春の影響で雪解け水の大洪水が起こり、その気候をうまく利用してタルシュの軍勢を破る新ヨゴ軍。この戦略も見事。うまいこと異世界イメージと現実のバランスをとっています。

ああそういえば「大洪水伝説」って、よくいろんな民族の神話にあるんでしたね。「大洪水がすべてを押し流し浄化した後に、新たなる希望が芽生える」のは、世界中の神話にある話。文化人類学者の上橋氏のこと、もちろんそこらを踏まえてこの希望あるラストを持ってきてくれたのでしょう。ああ、言葉でこうやって語るのももどかしい。

つくづく「児童文学」というジャンル分けは無意味。この感動は子供でも大人でも、いや、大人であればあるだけ深く味わうことができるでしょう。大人にこそ読んでもらいたい。ぜひ。って、偕成社の回し者じゃないんだけれど。

次はなんと、春から予約していた「一瞬の風になれ」が回ってきました。やったーーーー!!宮部みゆき氏、あさのあつこ氏、そしてこの上橋菜穂子氏大絶賛!これは心して読まずばなりますまい。

2007年11月10日 (土)

蒼路の旅人

1110 というわけで、今や「守り人シリーズ」に夢中。

それにしても今までの人生でそれなりに結構な量の本やマンガを読んできたつもりなのですが、まだ読まぬ本、まだ触れぬマンガというのが尽きることがありません。はっと気がつけば今までその名も知らなかった作者やシリーズにいつの間にか夢中になっています。

なんというありがたいことでしょう!母国語日本語でこれほどの量の作品を読めることの幸せ。そして本やマンガを流通させ、読ますことができる日本という国家の平和の幸せ。いいよなあ。

願わくば、下らぬ言論統制などで表現の自由が縛られることのなきよう!ヴァイオレンスだろうがエロスだろうが本やマンガやゲームである以上統制かけてどうする?というのが持論です。「リアリティとバーチャルリアリティの区別がつかない」やつは、木の股を見ても強姦しようとするだろうし、トンカチを持てば人の頭を殴ろうとするでしょう。表現を統制するのはまったく無駄な作業です。

などという能書きはさておいて、「蒼路の旅人」(上橋菜穂子著・偕成社)。「守り人シリーズ」の番外編とも言うべき「旅人シリーズ」は、わたくしひいきのチャグム皇子が主人公のシリーズ。第一作の「精霊の守り人」では、ひ弱なガキンチョだったチャグム皇子、一作ごとにどんどん成長し、どんどんいい男への道を歩いてます。

ンもおおおおン、たまらん!

「蒼路の旅人」はこのシリーズの起承転結の転部分の作品のようで、ここで「守り人シリーズ」の世界観が一気に広がり、かつ繋がって、壮大な国家論まで飛び出してきてます。新ヨゴ国の皇太子として母国の大日照りを救ったチャグムは、この巻で国家間闘争に巻き込まれて、むちゃくちゃ人間臭い政治交渉と対応を迫られております。苦労の耐えんことじゃのう。

一見ひ弱な皇太子でありながら要所要所で見せる対応は見事の一言。それでも弱小国の悲しさ、大国タルシュの虜となって母国へ護送される途中で、チャグムが仕掛けるあっと驚く大逆転の秘策とは?

わくわくするぞ~!どきどきするぞ~!チャグムのあまりのカッコよさと少年らしい危うさにくらくらするぞ~!

そして佐竹美保氏の挿絵がいい。本編シリーズの挿絵よりこっちのほうがわたしは好きだ。

とにかくお勧めの「守り人シリーズ」、ぜひぜひ皆様もお読みくだされ。

2007年10月29日 (月)

神の守り人・来訪編・帰還編

1029 一神教というやつが嫌いです。さらにいうなら「自分を正しいと信じて疑わない」やつが大嫌いです。こういうやつの迷いの無さは、自覚のある悪党よりはるかに迷惑です。有史以来、最も多くの殺人が「神の名の下に」なされてきたのです。そして今この瞬間にも「神の名の下に」人が、殺され続けているのです。

上橋菜穂子氏の「守り人」シリーズは、ファンタジーでありながらありとあらゆる人間社会の含む問題に切り込んでいるのですが、「神の守り人」はまさしくこの問題に真っ向切り込んでいます。それも児童文学の枠内を外さず、わかりやすく過不足無く、でありながらおもしろく。なんという離れ業でしょう!!すばらしい!

あいかわらず、ファンタジーの命、世界観の構築も見事。「何十年、何百年に一度、異界から押し寄せる『恐ろしき神』を運ぶ川」のイメージ、こんなのどうやって思いつくの?!異界の見えない川が押し寄せてくるとこの世では川の光だけがゆらゆらと光り、苔が湿り始める。なんと豊かなイメージ。

異界の川の中にいる『恐ろしき神』をこの世でコントロールできるのは、『恐ろしき神』に選ばれた少女だけ。その力を手に入れた少女は自分の心ひとつで人を虐殺できるようになるのです。少女にとっての絶対正義でも、他の人々にとって決して正義ではない。それが心の奥底でわかっていても、強大な力を手に入れた少女は「殺すこと」を止められない。そして「殺すこと」を始めてしまうと、今度はその「殺したこと」に追い詰められてさらなる「殺し」を重ねてしまう。そのジレンマの恐ろしさ。上橋氏は容赦なく少女を追い詰め、「ああ、この解決法しかなかったな・・・・・」というラストにもっていきます。

そうです。「絶対正義」を標榜してしまうと行き着くところはここしかないのです。「自分は正義に則っている」というのはある種の高揚感を伴う気持ちのいい行為だったりするのですが、その気持ちよさの裏にある罠はとても恐ろしい。だから「水戸黄門」も大嫌い。あれも「葵の御紋」のもとに行われるリンチであり大虐殺なのです。

TVは前世紀の後半から人類社会を席捲しましたが、この機械をある種の神として一神教がはびこっていると思います。そういう世の中で本、しかも児童文学という一時代も二時代も前のメディア分野で、こういう作品が生まれだしているということは大変に意味のあることだと思うのです。

2007年10月28日 (日)

虚空の旅人

1028 ひとつのシリーズにはまったら、徹底的にそれを読みつくすまでは止められない止まらない、という読書癖がありまして。まあ、でもそんな人は多いんじゃないですかね。おもしろいと「続きは、続きは?」夢中になりますね。

今、はまっているのは上橋菜穂子氏の「守り人」シリーズ。たまらん。おもしろすぎ。

さっき番外編とでもいうべき「虚空の旅人」を読み終わったところなのですが、・・・・・・・・良かったわあ・・・・・・・(溜息)。

なにせわたくしチャグム皇子びいきなので、チャグム全編大活躍!のこれはうれしさ倍増!「精霊の守り人」のときより少し大人になったチャグム。「黒い目がどきっとするほどきれいなの」と他国の王女に言わしめるほど魅力的で、なおかつ内に激しいものを秘めた少年に育ってきてます。いいぞ、いいぞ。さらにいうならチャグム皇子の学問係、星読み博士のシュガ。シュガも好きなんですよ。この主従がでてくると「出たーーーーー!!」と叫んでしまいます。

それにしても上橋氏、本業は文化人類学の学者さんだということですが、すごいよね。ファンタジーの命は世界観の構築だと思うんだけれど、その世界観にまったくの揺るぎがない。今回の舞台「サンガル王国」の設定もすごい。「海洋王国にして多島国家、先祖は海賊だった王家。かしこい王家の女たちが島守の男たちと姻戚関係を結んで成立している。」なんて設定、やっぱり現実のフィールドワークをしてる人じゃないと考えつかないよ。

おもしろかったーーーー。!!

あとは「天空の守り人」を図書館で予約しております。早く連絡来ないかな~~。首を長くして待っているところなのです。

2007年10月 4日 (木)

精霊の守り人

Nec_0002 活字やマンガに接してから映像を見るパターンがほとんどなのですが、ひさびさに「アニメを見てから原作を読む」ということをしました。それほど「精霊の守り人」はアニメもいいできでした。名作「甲殻機動隊シリーズ」のスタッフが作ってるのだから当然か。

本で読む「精霊の守り人」(上橋菜穂子著・新潮文庫)も、とてもよかったです!バルサがチャグムがタンダが、文章の中から生き生きと立ち上がってくるような気がしました。いいなあ、このシリーズ。今のところ「闇の守り人」「花の守り人」まで読んだのですが、まだまだあるので、「続きを読める」と思うだけでうっきうき♪

あ、そういえば図書館の整理期間が今日までなんだ!早く開かないかな?図書館。

それにしても「児童文学」とか「ファンタジー」とかの一昔前なら子供だましと見られていた分野が、まったく様変わりしているんだなあ。「十二国記」にしたって「バッテリー」にしたって、この「精霊の守り人」にしたって全部もともとが児童文学ですよ。しかも著者が全部女性。

語り部ってのは、古来より女性の役目なんだよな。

2007年9月11日 (火)

アキハバラ@DEEP

Nec_0012 「椿屋敷農園」ブログをはじめた動機のひとつが、「アキハバラ@DEEP」(石田衣良著・文藝春秋)でした。もう3年半も前でしたか。衝撃でした。

石田氏の「池袋ウェストゲートパークシリーズ」も「波の上の魔術師」も「うつくしいこども」も「娼年」も好きだけれど、一番は「アキハバラ@DEEP」。文庫本になったので読み返してみましたが、やはり血沸き肉踊ります。そういやTV化、映画化されたんだったな。未見ですが。

アキハバラに集うそれぞれに欠陥を抱えた若い衆が、自分の能力とセンスと勇気を武器に、IT帝国主義の会社に戦いを挑むお話なのですが、もうね、キャラクターの設定と道具立てとアキハバラの舞台設定がいちいち秀逸で、シビれるんですよ。石田氏、これだけの派手な世界観設定をしておきながら使いこなしっぷりが凄い。一昔前なら「近未来SF」とやらにジャンル分けされてたであろう設定なのに、いまや普通の「長編青春電脳小説」。いい時代になったもんだ。

吃音症だけれど言語センスに飛びぬけたページ、不潔恐怖症だけれどデザインセンス抜群のボックス、謎の癲癇発作を持つけれどリズム感と絶対音感抜群のタイコ、絶世の美少女だけれど格闘技の天才アキラ、アルビノだけれど天才プログラマーのイズム、元引きこもり今出っ放しの法律家ダルマ・・・・・・。「今の社会に適応できないけれど、それぞれに取り柄を持つ若者たちが、力をあわせて何かを成し遂げる」お話。いいぞお!!

「人間の意思の働きを組み込んだAI型サーチエンジン」のアイデアも秀逸だし(そんなサーチエンジンがあったら欲しいわ、ほんと)、なにより彼らが作る会社「アキハバラ@DEEP」の基本方針がね、いいんですよ。

『必要以上に大きくしない。有名にならなくてもいい。小さなまま自分たちが満足いく暮らしができて同類を手助けしてあげられるくらいのぎりぎりの利益で満足する。パンくずひとつあればひと冬暮らせる羽虫のように、一生懸命でもなく、死ぬほどがんばることもなく、ゆるゆると生き延びる。』

これだ!と思いました。

細く長く無理のないやり方で淡々と商売する。もちろん利益はいるけれども大儲けを考えない。

「うちの農園の方針もこれだな。」と。

あれから3年、ゆるゆるぼちぼちの精神はあいかわらず、でもおかげさまで続けています。ありがとう「アキハバラ@DEEP」!「何かを変えたい、はじめたい」みなさまにもお勧めの本です。無理なくはじめるすべが、この本には載ってます。