昨日は春分の日だったのでありました。うららかな春の日で気持ちが良かったなあ。
昔、妹と奈良の二上山に登ったことがありました。二上山は「春分と秋分にふたこぶラクダのこぶのようになった山のくぼみのど真ん中に日が落ちる」山です。低い山なのですがよく「古代人が天文に利用していた」と言われて伝奇ミステリーの舞台になってます。五木寛之の「風の王国」とかですね、話題になったときがありました。
そういう伝説があってもおかしくないぐらい、なかなかに雰囲気たっぷりな山でした。奈良時代の政争で処刑された志貴皇子の碑があったり。登ったのはよく晴れた冬の日だったんだけどなんとなく山そのものが薄暗かった。鹿児島の山のように照葉樹林がわんさか生えているわけじゃないのに、空気が暗い。
有名な山のはずなのにその日は他に誰も登る人がいず、頂上まで二人で黙々と登りました。頂上にでてかなり開けた場所になって小春日和の日ざしが射していても、やっぱりなんとなく暗い。細い分かれ道があったので「そっちに行って見ようか・・・」と何の気なしに行ってみたら、そこは古い石切場の後。これまた荒涼として雰囲気たっぷり。あいかわらず人けがない。
なんとなく怖くなってきて「降りるか」といそいそ降り始めたら、迷ってしまった。ますます背筋が寒くなってきて二人してだんまり黙ったままもくもくと歩き続けたわけです。
道の先のほうからがさがさと何かの気配がしてきたので、妹と顔を見合わせる。気の強い妹の顔にも「怖い」と描いてありましたね。たぶんわたくしの顔はもっと引き攣っていたことでしょう。
がさがさがさ・・・・・・
ススキの藪を掻き分けて出てきたのは一眼レフのカメラとカメラマンのベストをつけた禿げたおっさんでした。
「待った、待った。わたしはこういう者です!」
わたくし達の顔がよっぽど引き攣ったのでしょう、おっさんが名刺を出してきました。毎日新聞の名古屋支社の人でした。休暇を利用して登りに来たのだそう。やっぱり「風の王国」を読んだのだとか。
古代人のミステリーや奈良の政争の恨みは吹っ飛んで、いきなり現実の社会に戻りましたです。
おっさんも道に迷って途方に暮れてたようですが、「三人寄れば文殊の知恵」と言いましょうや、人間冷静になると道が開けるものです。なんとかわかりにくくなっていた分かれ道を探し出して無事に下山いたしましたです。
教訓:二上山みたいな低い山でも、パニくると素人には怖い。おっさんの禿は人の心を現実に戻す効果がある。
あのときの毎日新聞の方、ありがたく心強かったです。いまだに感謝いたしますです。
最近のコメント