「ふうう―――――っ!」
「バッテリー」(全6巻・あさのあつこ著・教育画劇もしくは角川文庫)を読み終わったとたんに溜め息が漏れました。
なんというお話だったことでしょう!さんざん小説やマンガで使い古された「野球」を使い、しかも甲子園には程遠い中学校。地方都市。それなのにこの斬新さ。躍動感。感動。
まったくもって物語というのは設定や世界観だけではどうにもなりません。キャラクターです。有機的に絡み合うキャラクターの性格や思惑やなにやかやこそが物語を動かす原動力となるのです。
それにしても、このほとんど少年ばかりがでてくるお話の作者あさのあつこ氏は、少年とは対極にいるある程度年齢の行った女性です。
母親なのです。
現実に男の子を育て上げた経験をもつ母親。
これは強いね~~。「バッテリー」シリーズを読んでつくづく思いました。ある程度文章やマンガを書く女にとって、「少年たちを描く」というのはすごく誘惑の多い衝動なんですよ。だいたい「いくらなんでもそれはないだろう?」といかにもな失敗に終わるんですけどね。男の作者が「理想の少女像」を描こうとして女からしたら「ケッ」と思わせる妄想に終始してしまうのと同じ。
これがさ、男の子の母親となって、現実に成長していくさまをつぶさに見てきたとなると、まあ、リアリティが違うわい。これからこういう作者や作品が増えてくるんじゃないかなあ?
たとえば「ヒカルの碁」(ほったゆみ・小畑健著・集英社)。あのマンガが少年漫画の牙城少年ジャンプに殴りこみをかけてきたときにゃ~たまげましたよ。「碁」ですよ。しかも原作者は「お母さん」。それまでの少年漫画の作者とはかけ離れてます。ましてや少年ジャンプは漫画家志望の少年を10代から囲い込んで育てる虎の穴の草分けとして有名なところだったし。あくまで「お母さん」をやりながら地方都市からFAXでネームを送る。生活が一番でジャンプでの常識だった「一日3時間睡眠」とかは決してしない。でありながらあのクオリティ。
マスコミとか出版界とか、ほとんどが東京にあります。いっちゃあなんだけどちょっと狂った世界じゃないかな?地方都市や普通のご家庭とはまったくペースが違う。でも、日本のほとんどは地方都市で普通のご家庭なのです。本を読むのもそういう人たち。
たぶん、これから「ものを書く人」の中に「地方都市在住で普通の家庭生活をやっていて、子育てなんかも一段落したお母さん」が参入してくるのが増えてくると思います。
そしてそれは凄くいいこと。ガキにゃ~書けない世界を、見せてくれる人たちが増えるということ。
なんだかとても楽しみになってきたぞ。
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